木下大輔「ミドル・シニア従業員におけるキャリア・プラトーとプロアクティブ行動」

  

【要旨】

本研究の目的は、キャリア・プラトー状態にあるミドル・シニア従業員がプロアクティブ行動を取り得るのかを確認すること及びミドル・シニア従業員がどのような要因によりキャリア・プラトーに至るのかを明らかにすることの2 点である。

先行研究によると、キャリア・プラトーに関する研究は、Ference et al.(1977)をはじめ、多くの研究成果があげられているが、日本国内のミドル・シニア従業員に焦点を当てた研究は多くない。また、プロアクティブ行動に関する研究では、現象先行の研究領域において多数の研究者が特定の行動傾向に焦点を当て理論を構築されており、先行要因についても確認がなされている。ただし、国レベルの背景には注意が払われていないことが多く、より精緻にプロアクティブ行動に対する研究成果を上げるためには、経済、国の制度・体制、国の文化など、国レベルの要因を考慮する必要があるとされている(Parker et al., 2019)。

キャリア・プラトー及びプロアクティブ行動に関する研究は、社会的な必要性の高まりにより、近年多くの研究結果が蓄積されている。しかしながら、キャリア・プラトーとプロアクティブ行動の関係について議論されている先行研究はほとんどみあたらない。そこで本研究では、キャリア・プラトーとプロアクティブ行動の関係やその調整変数となる要因を確認する。研究対象としては日本国内のミドル・シニア従業員に焦点を当て、キャリア・プラトーの先行要因及びプロアクティブ行動に至る要因を明らかにすることを目指す。

調査に当たっては、キャリア・プラトー状態にあるミドル・シニア従業員が、プロアクティブ行動に至る要因を定量的に検証するため、45 歳以上65 歳未満の正社員を対象とした質問票調査を実施した。その結果、スクリーニング調査では2000 サンプルを回収し、本調査では258 名から有効回答が得られた。

分析による発見事実は、以下4 点である。(1)Person-Environment 適合はキャリア・プラトーに負の有意な影響を及ぼしたのに対し自律支援型リーダーシップには有意な影響は認められなかったこと。(2)キャリア・プラトーはプロアクティブ行動に対し負の有意な影響を及ぼしていること。(3)自律支援型リーダーシップ及び学習目標志向はプロアクティブ行動に対し有意な影響を及ぼしていたのに対し、柔軟指向性のHuman Resource Management には有意な影響は認められなかったこと。(4)本研究で設定した調整変数(柔軟指向性のHuman Resource Management、自律支援型リーダーシップ、学習目標志向)による調整効果は認められず、キャリア・プラトーのレベルに関わらず、調整変数が

プロアクティブ行動に与える影響はないことの4 点が挙げられる。

本研究の理論的意義は3 点である。(1)プロアクティブ行動研究への貢献、(2)キャリア・プラトー研究への貢献、(3)ミドル・シニアの働き方への課題に対する貢献である。実践的意義は2 点である。(1)ミドル・シニア従業員に対するプロアクティブ行動を引き起こす要因を明らかにした点、(2)ミドル・シニア従業員においてプロアクティブ行動を惹起する要因として、リーダーシップ及び学習目標志向が必要であることを明らかにした点である。

本研究の限界と今後の課題としては、(1)本研究で得られたデータは、常用労働者300 人以上の大企業に所属する従業員から取得していること。(2)本研究で得られたデータには、調査実施時点における回顧的データが含まれていること。(3)本研究の測定では、主観的なプラトー化についてのみ確認を行い、本人以外に対する客観的状況の確認は行わなかったことが挙げられる。

 

 

菅貞秀太郎「問題予防型プロアクティブ行動の先行要因の解明:促進型プロアクティブ行動との比較」

 

【要旨】

背景:現代の組織運営では変革・成果向上(促進的取組)と同時にリスクマネジメント(問題予防的取組)も求められており、将来を予測し改善や問題予防に自発的に取り組むプロアクティブ行動(PR行動)が重要となる。このPR行動を高めるためには先行要因の適切な理解が不可欠である。しかし、PR行動はこれまで促進的な面が注目され、問題予防的側面は必ずしも十分に研究されてきたとはいえない。このため、PR行動の先行要因も促進型を中心に研究され、問題予防型との違いが想定されないまま、あたかも共通であるかのように取り扱われている。

目的:本研究では、暗黙裡に共通と考えられてきたPR行動の先行要因が促進型/問題予防型に対して異なる影響を及ぼすこと、問題予防型PR行動に特有の先行要因が存在すること、の2つを実証して、両者を区別することの理論的・実務的重要性を明らかにする。

方法:経営学分野に加えて、労働災害等防止に特化した労働安全衛生分野におけるPR行動研究をレビューし、両者の違いから問題予防型PR行動の特徴的な要因を検討した。その結果、変革型リーダーシップ(TL)の非線形関係、パラドックス・マインドセット(PDXマインドセット)による両立思考、問題予防風土の3点の示唆を得た。そして、この3つの説明変数が実際に促進型/問題予防型PR行動に異なる影響を及ぼすことを確かめるため、目的変数となるPR行動を促進型/問題予防型に分けた上で重回帰分析を実施した。問題予防型PR行動と問題予防風土尺度は本研究で独自に作成した。

結果:想定どおり、説明変数の両者への影響は異なった。TLと促進型PR行動には線形的関係があるのに対し問題予防型PR行動とは非線形関係が強いこと、問題予防風土は問題予防型PR行動にのみ有意であること等が明らかになった。特に、TLとの非線形関係はTL中水準の場合に問題予防型PR行動が抑制される可能性を示唆していた。

結論:本研究は、問題予防型PR行動尺度等の作成を通じてその概念を明確化し、促進型/問題予防型PR行動の先行要因とその効果の違いを明らかにした。この結果、問題予防型PR行動に特有の抑制条件が見られる等、両者を区別して理解・測定することの重要性が示唆された。変革・成果向上とリスクマネジメントのバランスをとるためには、促進型と問題予防型のPR行動を同一視せず、その違いを考慮した理論的・実務的アプローチが不可欠である。

 

間裕一「役職定年を経験したシニア労働者のジョブ・クラフティングとワーク・エンゲイジメント:レジリエンスの媒介効果」

 

【要旨】

本研究は国内の生産年齢人口のうち、今後増加が見込まれるシニア労働者を対象に、シニア労働者の職務設計と活用方法に具体的な示唆を提供することを目指し、検討を行った。

本研究では、シニア労働者が職場でうまく年齢を重ねていくために仕事を形成する方法、シニア労働者の労働意欲がどのような状況であるのかを検証するため、ジョブ・クラフティング、ワーク・エンゲイジメント、職務プレッシャー、職務自律性、レジリエンスの5つの概念を選択した。検証では、シニア労働者における職務プレッシャーや職務自律性の状況を把握しつつ、シニア労働者のジョブ・クラフティング行動の実施状況、彼らのワーク・エンゲイジメントにどのような影響を与えるかを明らかにするとともに、両者の影響にレジリエンスがどの程度媒介しているのかを定量調査により分析した。

定量調査は、大企業(従業員数301 名以上)に勤務する会社員のうち、会社に定年退職制度及び役職定年制度があり、役職定年を迎えたが定年退職を迎えていない管理職経験のある55 歳から65 歳までのシニア労働者を対象にインターネット調査を実施し、195名から回答を得た。

調査に当たって、「シニア労働者のジョブ・クラフティング行動(順応性クラフティング、活用クラフティング、発達的クラフティング)は、ワーク・エンゲイジメントと正の相関がある。」、「レジリエンスがジョブ・クラフティング行動(順応性クラフティング、活用クラフティング、発達的クラフティング)とワーク・エンゲイジメントの間で媒介効果を持つ。」など、4つの仮説を導出した上で分析、仮説の検証を行った。

階層的重回帰分析の結果、「シニア労働者の高い職務プレッシャーは、ジョブ・クラフティング行動(順応性クラフティング、活用クラフティング、発達的クラフティング)と負の相関がある。」とした仮説は棄却となったが、シニア労働者が持つレジリエンスがジョブ・クラフティングとワーク・エンゲイジメント向上に完全な媒介効果をもたらすなど、残る3つの仮説は支持された。

本研究の理論的貢献について2点挙げる。第1は、シニア労働者が持つレジリエンスがジョブ・クラフティングとワーク・エンゲイジメント向上に完全な媒介効果をもたらした点である。シニア労働者向けジョブ・クラフティング研究にレジリエンスを用いることは学術的にも新規性があり、本研究ではジョブ・クラフティングとワーク・エンゲイジメント向上にレジリエンスを媒介させた場合とそうでない場合を比較したところレジリエンスを媒介させた方がワーク・エンゲイジメント向上に完全な媒介効果を与えることを明らかにした。この点は、シニア向けジョブ・クラフティング研究においてレジリエンスが活用できることを一定に示したものと言える。

第2は、国内でのシニア労働者向けジョブ・クラフティング研究に定量面から検証を行った点である。本研究では、国内の大企業に勤める役職定年を迎えた管理職経験者を対象に、Kooij et al. (2022)のJob Crafting over the Lifespan(JCL)尺度を国内で初めて用いて分析を行った。JCL尺度による分析結果は、Kooij et al. (2022)が行ったオランダでの研究結果に加え、本研究でも有意な影響を示すことができたことは学術的貢献に値すると言える。

次に、本研究の実務的貢献として2点挙げる。第1は、役職定年を迎えたシニア労働者は高い職務プレッシャーの場合にシニア労働者向けジョブ・クラフティング行動を起こしにくく、高い職務自律性がある場合はシニア労働者向けジョブ・クラフティング行動を起こしやすいことを明らかにした点である。この点は、これまでミドル世代等でのジョブ・クラフティング研究でも明らかにされていたが、役職定年を迎えたシニア労働者においても同様の結果が得られたことは実務的な貢献と言える。

第2は、シニア労働者向けジョブ・クラフティング行動とレジリエンスの関係性を明らかにした点である。Tims et al. (2010)のジョブ・クラフティングの提案モデルでは、ジョブ・クラフティングとレジリエンスの関係性を示しているが、これらを研究モデルに取り入れるケースは少なく、特にシニア労働者向けジョブ・クラフティングでは取り入れられていなかった。本研究では、レジリエンスがシニア労働者向けジョブ・クラフティングに対して有意な正の影響を与えることを示すとともに、シニア労働者向けジョブ・クラフティングとワーク・エンゲイジメント向上との関係性を完全媒介することを示した。シニア労働者がジョブ・クラフティング行動を行うためにはレジリエンスを考慮した職務設計が望まれ、こうした観点は、シニア労働者個人だけでなく、活用する組織側にも必要であることを提供できた点で実務的な貢献があると言える。

 

山本信彰「地方公務員の昇進意欲に対するPublic Service Motivation及び組織コミットメントの影響」

 

【要旨】

本研究は、地方公務員の昇進意欲に対するPublic Service Motivation(以下、PSM)と組織コミットメントによる影響に着目して調査、分析を行い、個人の内面や行動からの影響を明らかにするものである。

国内における昇進意欲研究は、男性と比較して著しく意欲の低い女性の要因を明らかにすることを中心として、施策や個人属性との関係を検討してきた。しかしながら、個人の内面や行動との関係は十分には研究が進んでいなかったことから、昇進意欲を内発的動機付けと捉えて、他の概念との関係を検証することとした。地方公務員の昇進意欲を調査するにあたって、公共サービスを提供する組織にとって望ましい職員を特徴づける優れた概念であることから、PSMに着目した。また、文化的・言語的背景を理由として、統一的な尺度開発に至っていないPSM研究において、実証的な研究が限られている日本で調査することにも一定の意義がある。更に、市民の税金を原資とするため報酬が限られている地方公共団体にとって、組織への貢献を促すために重要な要素となる組織コミットメントにも着目した。PSMと組織コミットメントの関係性は、PSM研究においても重要な視点であるとされており、両者を本研究で取り上げることで研究の発展が望めた。

本研究では、「地方公務員の昇進意欲とPSMがどの様な関係性を有しているのか」、「地方公務員の昇進意欲と組織コミットメントがどの様な関係性を有しているのか」の2点をリサーチクエスチョンとして設定し、質問票調査を実施し、定量的に分析を行った。階層的ロジスティック回帰分析及び階層的重回帰分析の結果、次の3点を確認することができた。1点目は、女性において、PSMの一部が昇進意欲に負の影響を与えることを確認したことである。2点目は、男性において、存続的コミットメントが昇進意欲に正の影響を与えることを確認したことである。3点目は、PSMの下位次元を先行要因として、組織コミットメントの下位次元と多様な関係を持っていることである。

本研究の理論的な意義は3点挙げられる。1点目は、昇進意欲研究への理論的貢献である。女性において、公益実現に人を向かわせるモチベーションとされているPSMの一部が、昇進意欲に対して負の影響を与えていることを実証的に確認することができた。昇進意欲と個人の内面の関連性を定量的に示すことができ、理論的な貢献ができたと言える。2点目は、組織コミットメント研究への理論的貢献である。西洋文化圏では負の影響を与えると考えられていた存続的コミットメントは、非西洋文化圏では正の影響を与える可能性が確認されており、実証研究の増大が求められていた。男性において、存続的コミットメントが昇進意欲に正の影響を与えることを実証的に示すことができたことで、本研究は組織コミットメント研究に一定の貢献ができたと言える。3点目は、PSM研究への理論的貢献である。日本においてPSMを先行要因として組織コミットメントの下位次元と多様な関係があることを確認できたことにより、PSM研究の理論を拡張するものとなったと言える。

本研究の限界と課題は3点ある。1点目は、女性のサンプルサイズが限られていたことにより、精微な検証が十分に行えなかったことである。2点目は、先行研究と同様に、PSMの因子分析結果が下位4次元で分類することができず、日本におけるPSMを十分に捉えきれていないことである。3点目は、昇進意欲の一側面に焦点を当てた研究に留まっており、外発的報酬との関連性といった側面へのアプローチはできていないことである。