第5期生(2013年3月卒業)

 

○内山晴香「情報共有における隠れたプロフィール現象と生起抑制の要因-反証促進によるHP改善の可能性-」
[アブストラクト]
組織と会議は切っても切れない関係にある。このように日常的に行われる会議の質を向上させるため、本論文では集団における情報共有の際に起こる隠れたプロフィール(HP)現象に焦点を当て、この現象の生起抑制に寄与する要因を明らかにすることを目的として研究を行った。HP現象とは情報共有の際に、グループ成員が共通して持つ共有情報に注目が集まりやすく、個別に持つ非共有情報が討議の中で考慮されにくいという特徴により集団意思決定でエラーを引き起こす現象である。
仮説では「反証促進」と「集団規範」に注目し、これらがHP現象の生起抑制に影響を与えるかどうかを実験により検証した。実験は3人集団で情報共有を行い、3つの選択肢の中から最も優位な候補を集団決定で選ぶというものである。各自の持つ非共有情報を討議の場に表出することができれば真なる解を導くことができる。結果として、反証促進はHP現象の生起抑制に効果をもたらすことが明らかになった。本研究ではグループ成員の意識に対する働きかけがHP現象改善に寄与する可能性を示唆することができた。

○小山諒「対人関係の組織における自己概念への影響力―組織基盤の自己価値への影響要因―」
[アブストラクト]
 本論文は日本では研究が進んでいない組織基盤の自己価値(Organization‐based self‐esteem、以下OBSE)へ対人関係から影響を及ぼすことはあるかを調査したものである。まずOBSEと自己効力感との間の類似性を、両概念が個人の職務成果に正の影響をもたらすという先行研究から見出した。そして自己効力感への影響要因であり対人関係から発生する代理体験、社会的説得、そしてそれらを生みだす他者との交流が個人のOBSEへ影響を与えるという仮説を構築し、調査分析を行った。その結果、仮説は支持されず個人のOBSEへの新たな影響要因として対人関係から発生する代理体験、社会的説得、それらを生みだす他者との交流は新たな影響要因とすることはできなかった。そのため仮説が支持されなかった要因を組織内のネットワークの雰囲気、個人の他者からの発言に対する認知などの観点に求めることとなった。
 本研究ではOBSEへの新たな影響を発見することはできなかったが、OBSEと自己効力感の間に存在する複雑さと、今後のOBSE研究への調査方法の改善などを提示することができた。

○福山雄規「過去の経験とメンタリング機能提供の関係性―優秀なメンター育成のために
[アブストラクト]
知識のある人(メンター)からまだ未熟な人(メンティ)に支援をする「メンタリング」が昨今の企業の人材育成で注目されている。
本論文では、優秀なメンターを「メンティに多くのメンタリング機能を提供しているメンター」と規定し、メンタリング分野の先行研究や、社会学の分野である、「重要な他者」などの尺度を用いて、メンターが過去にどのような環境があり、経験を積めば優秀なメンターになることができるのかを明らかにしていくことにした。
仮説を立て、調査を行った結果、「メンターが現在のメンティに提供しているメンタリング機能の量を促進するには、メンターが過去に他者から受容したメンタリング機能が最も重要である」ということと、「メンターが過去に他者から受容したメンタリング機能が多い場合、その他者は重要な他者であることが多い」ということと、「メンターが過去に他者が受容したメンタリング機能の下位尺度は、フォーマル・メンタリングとインフォーマル・メンタリングで差がある」ことを明らかにした。以上の結果から、「現在のメンティに多くのメンタリングを提供するメンターになるためには、過去に重要な他者からメンタリング機能を受容する必要がある」ことを明らかにすることができた。

○松下誉「職場内ひいきの発生要因と影響過程-上司と部下の信頼関係の構築」
[アブストラクト]
 短期的な雇用形態や成果主義の導入の中で、その成果を反映するために評価、処遇の段階での公正性が近年注目されている。本論文はその中でも、全ての公正性の基盤ともいえる対人関係の公正性に注目し、上司の部下による職場内における不公正な扱いを“職場内ひいき”と捉え、職場内ひいき行動の発生要因と影響過程について明らかにすることを目的とした。
 本論では、「上司との関係性から発生した職場内ひいきは、仕事のパフォーマンスを落としてしまう」という仮説のもと質問紙調査を行った。しかし検証したところ、「職場内ひいきは仕事に正の影響を与える」という、仮説とは正反対の結果が生じた。このことから、上司の“ひいき”行動とは言い換えれば、上司の部下に対する“配慮”行動とも捉えられることが示唆された。

○吉高洋如「他者失敗からの学習志向性―その探索的研究」
[アブストラクト]
組織における個人の学びにおいて、他者の経験というのは重要な要素を占める。特に他者の失敗経験が個人の学びに与える影響は、個人の失敗経験のそれを凌駕すると先行研究は伝えている。本論文では、この他者の失敗経験に生じる価値に焦点を当て、そこから学ぼうとする傾向を「他者失敗からの学習志向性」とし、探索的研究を行った。その探索の対象は、「他者失敗からの学習志向性」を構成している要素と、それに影響を与える性格要因・組織要因である。また調査の前段階では「他者失敗からの学習志向性」を定量的に測るための尺度作成も行った。
研究の結果、「他者失敗からの学習志向性」は、他者失敗への「注意志向」・「考察志向」・「活用志向」という3つの要素で構成されている事が判明した。さらに、それらは個人の性格における「経験の開放性」と、職場の風土における「オープンコミュニケーション」によって促進されることが示された。これらの結果により、他者失敗からの学習というものが定量的に明かされたと同時に、職場内における個人の学びを促進させる方法が提示されたと考える。