新垣彩乃「ボス・マネジメントと部下の業績・ストレスに関する一考察―
配慮行動と構造づくりを行う上司に対する部下の有効な行動 ―」
[アブストラクト]
本論文は、「ボス・マネジメントは部下の業績向上、ストレス低下につながるのか」また、「配慮行動、構造づくりを行う上司に対して、部下はどのようなボス・マネジメントを行えば業績向上、ストレス低下の効果を強めるのか」を明らかにするものである。ボス・マネジメントとは、部下が上司を戦略的に動かす行動であり、本論文ではボス・マネジメントを上方向への影響戦略とLMXの概念を用いて仮説を構築し、調査を行った。
分析の結果、ボス・マネジメントは業績に正の影響を与え、ストレスに負の影響を与えることが明らかになった。構造づくりを行う上司に対する部下の演技性対応、および上司との良好な関係は部下の業績に正の影響を与え、部下の合理性対応は、部下のストレスに負の影響を与えることが示された。近年、ボス・マネジメントの重要性が議論されてきているものの、わずかな研究しか行われておらず、本論文においてボス・マネジメントは部下にとって有益であることを示したことは意義があると言える。
大山明日香「社会化戦術と新入社員のレジリエンスがリアリティ・ショックと組織社会化に及ぼす影響―導入時研修とOJTの厳しさへの着目」
[アブストラクト]
本論文は、企業が行う導入時研修・OJTの厳しさと新卒社員の受けるリアリティ・ショックとの関係性に加え、新卒社員の個人内要因レジリエンスがリアリティ・ショックと組織社会化にどのような影響を及ぼすのかを明らかにするものである。レジリエンスは、「困難で驚異的な状況にも関わらず、うまく適応する過程、能力、および結果」と定義され、近年注目を集めている概念である。24歳から29歳までの社会人を対象に質問紙調査を行ったところ、レジリエンスが高いほどリアリティ・ショックを受けやすいが、同時に組織社会化しやすいという結果が得られた。また、導入時研修の厳しさとOJTの厳しさは単独ではリアリティ・ショックに影響を及ぼさないが、レジリエンスが高い人は導入時研修やOJTが厳しいほどリアリティ・ショックを一層感じやすくなることも示された。本論文では個人内要因によってリアリティ・ショックを受ける程度や組織社会化のしやすさが異なることが明らかとなり、本論文の意義が示されたといえる。
小掠康浩「リーダー行動と組織コミットメントの関係に影響を及ぼす状況要因の検討」
[アブストラクト]
終身雇用と年功序列に代表される日本的企業慣行は崩壊し、人材の流動化が進展する中、企業が正社員の定着化を図ることはますます困難な状況にあるといえる。そこで経営組織論の観点から、組織コミットメントを高めることで離職率を低下させる方法を探る。
本論文の目的は、上司のリーダー行動による部下の組織コミットメントへの影響を検討し、またその関係性が見出される詳細な状況要因を明らかにすることである。
調査の結果、協力の必要性の高い職務についたとき、「構造づくり」のリーダー行動は部下の組織コミットメントに正の影響を与えることが示された。また、概して職務特性に比べ、個人特性の方が直接的に組織コミットメントに影響を与えやすいことも示唆された。よってこれら結果から、上司は部下の個人特性を見極めたうえで、個々人に合わせたリーダーシップを取ることが望ましいといえる。これはリーダー行動の普遍性を否定し、状況によって有効なリーダーシップは異なるとした状況適合理論を一部支持する結果となった。
木村彩香「目標管理における支援とモティベーションに関する研究―目標コミットメントの観点から―」
[アブストラクト]
Drucker(1954)によって提唱された「目標管理制度」は、日本で1960年代の前半から導入が進み、現在多数の企業で導入されている。本論文は、「部下の目標管理において、上司のどのような支援が部下のモティベーションを向上させるのか」と問いを設定し、「部下の目標コミットメントを向上させる上司の支援」について明らかにすることを目的とするものである。社会人を対象とした質問紙調査を行った結果、目標設定段階の上司の支持的態度が部下の目標コミットメントに正の影響を与え、目標コミットメントが高いほどモティベーションが高いという知見が得られた。つまり、目標管理において部下を自身の目標にコミットさせるには、目標の実行段階よりも設定段階での上司の態度が非常に重要であると言え、部下のモティベーション管理には目標コミットメントを高める支援が有効であることが示唆された。本論文は、日本で不足している、目標管理における仕事への動機づけについて、目標コミットメントの観点から実践に即した研究を試みた点に意義があると考えられる。
小林健太「同僚のOCBが個人のOCBに与える影響について―集団主義社会におけるOCBの研究―」
[アブストラクト]
これまでOCBはアメリカを中心に様々な研究がなされてきており、日本における研究はまだ少ないのが現状である。その理由は、OCBは日本において当たり前のように行われてきた行動であるからだと考えられる。
本論文ではその理由を日本人の持つ集団主義的な価値観にあるし、その上で日本においては同僚のOCBを認知することで個人はOCBを行うのではないかと予想し、仮説を立てた。また組織支援知覚と心理的負債感に着目し、同僚のOCBを認知することの干渉効果を検討するための仮説を立て、検証を行った。
結果、同僚のOCBの認知と心理的負債感はそれぞれ個人のOCBに正の影響を与えることが分かった。また、同僚の市民道徳を認知することが心理的負債感と個人の市民道徳に負の干渉要因として働くことが示された。
千秋勝載「部下の仕事意欲を向上させる要因―上司のリーダーシップの影響力の視点から」
[アブストラクト]
部下の仕事意欲は上司とのどのような関係で向上するのか。本論では、部下の仕事意欲に影響を与えると想定されている上司のリーダーシップの影響力に着目し、「上司のリーダーシップは何によって影響されるのか」、「上司のリーダーシップの、部下の仕事意欲への影響力は何によって左右されるのか」という2つの問いを立てた。
以上の2つの問いに対してそれぞれ「上司の組織コミットメント」と「上司との同一化」について検討した結果、上司のリーダーシップには情緒的コミットメントが正の影響を与え、上司との同一化は上司のリーダーシップの影響力を左右しないということが明らかとなった。また、予期していなかった結果として、上司の配慮のリーダーシップは部下の仕事意欲に影響を与えず、上司との同一化が部下の仕事意欲に正の影響を与えるということが明らかとなった。これらの結果から本論では「上司との同一化と情緒的コミットメントによって促された上司の構造づくりのリーダーシップが部下の仕事意欲を向上させる」と結論を述べた。
リーダーシップの影響力を多面的に捉える研究は少ないため、本論の研究結果は今後のリーダーシップ論の研究にとって価値のあるものとみなすことができるであろう。
坪井友樹「メンタリングが新入社員に与える影響―組織社会化とモチベーションの観点から―」
[アブストラクト]
近年、多くの日本企業において、若年層の早期離職を防ぎ、組織への適応と定着を促進するために、公式メンタリング制度を導入する企業が増えている一方で、その意味や活用法が十分に理解されているとはいいがたい現状があるという。そこで、本論文は「メンタリング行動は新入社員にどのような影響を与えるのか」という問いを設定し、メンタリングの制度的活用の有効性を見出すことを目的とした。ここでいうメンタリングとは、上司や先輩(メンター)と部下や経験の浅い若手(メンティ)との垂直的関係間に結ばれる発達支援的な関係のことである。
入社6年目までの若手社員を対象とする質問紙調査を行った結果、「メンティの認知するメンターの能力の高さは、メンタリングの効果を促進させ、メンティの組織社会化とモチベーションに影響を与える」ということが判明した。一方で、メンティの認知するメンターとの親密性は両者ともに影響を与えなかった。以上の結果から、メンターの能力の高さは新入社員が受けるメンタリングに大きな影響を及ぼしているといえる。
富樫航太「コミットメントと組織変革に対する抵抗の関係性」
[アブストラクト]
近年、組織を取り巻く環境の変化は激しくなってきており、組織はそれに適応して成果を上げ続けるために組織変革を行う必要性が出てきている。しかし、組織変革には組織の成員の抵抗がつきものであり、簡単に実行できるものではない。そこで本論では、組織構成員の変革への抵抗感に影響を与える要因として、組織コミットメントおよび仕事コミットメントに着目し、それらと組織変革への抵抗や個人レベルの革新指向の行動との関係性を明らかにすることを試みた。
アンケート調査の結果、「情緒的コミットメントと仕事コミットメントが個人レベルの革新志向の行動を促進すること」、「組織コミットメントが変革への抵抗を促進すること」、「組織コミットメントおよび仕事コミットメントが変革への理解を促進すること」が分かった。
花田結香「日本的経営と内発的動機づけに関する研究」
[アブストラクト]
本論文は、「日本的経営はどのような条件下で内発的動機づけを高めるのか」という問いを明らかにするものである。
日本的経営に対する評価は賛否両論あり、これまで欧米からの評価に大きく影響を受けてきたが、そろそろ自分で考え評価するべきだ。
そこで、30歳~54歳の社会人を対象としてアンケート調査を行い、日本的経営が内発的動機づけへどのような影響を与えるかを検証した。検証の結果、終身雇用の制度により、仕事の内容が社員の主な動機づけ要因となっていることが分かった。また、能力に見合った仕事、分配的公正性、対人的公正性といった条件項目がそれぞれ単体で内発的動機づけを高めているということも判明した。この結果から、内発的動機づけを高めるかどうかは制度ではなく運用上の問題が大きく、これらを改善することで、終身雇用、年功序列といった日本的な経営システムが有効であることが導き出せた。