菊池梨子「上司との人間関係が若手社員の仕事観と仕事意欲の持続に与える影響」
【アブストラクト】
新型コロナウイルス感染症の対応から働き方が多様化していく中、大卒の入社3年以内の離職率は長年3割越えで推移しており、欠員補充の採用活動や研修は企業にとっても課題となっている。若手社員が日本社会で活躍するために、若年就業者の早期離職を防ぎ、いかに組織でより長期的な仕事意欲を持ち続けることができるかが重要である。また、離職意向のある若手社員の主な理由が「上司との関わり」に関するものであった。
そこで本論文では、上司との関係性に注目して、上司との関係性が、若者の仕事に対する目的や意義である「仕事観」と仕事意欲の持続に与える影響について入社3年未満の若手社員を対象に調査を行なった。2023年10月に調査会社を用いて180件のデータを収集し、重回帰分析を実施した結果、以下の6点が明らかになった。
・上司との良好な関係性は、若手社員の仕事観にポジティブな影響を与える。
・若手社員の上司への人間的な信頼が厚いと、仕事意欲を持続させる。
・若手社員の上司のスキルや能力に対する敬意があっても、仕事意欲の持続には影響しない。
・社会に貢献する意味や価値を追求し、仕事を通じて社会に良い影響を与えたいという仕事観は、仕事意欲を持続させる。
・主に仕事を通じて自分を成長させたいと思うが、報酬やプライベート、人間関係などもバランスよく重視する仕事観は、仕事意欲の持続に影響を与えない。
・入社時の仕事意欲が高いほど、現在の仕事意欲が下がりやすくなる。
今回の調査では、上司との良好な関係性は仕事観にポジティブな影響を与え、上司との良好な関係性における「信頼」の面が仕事意欲を持続させることが明らかになった。しかし、本調査における仕事観と上司との関係性で明らかになった構成因子について、より詳しい調査を行い、改善する余地がある。また、若手社員の離職と組織の人材教育コストを低減させるために、仕事意欲の持続や仕事観に影響を及ぼす、上司との関係性以外の要素でも調査する必要がある。
杉本実果子「フォロワーによるリーダーシップの認知とフォロワーシップ・組織コミットメントとの関係性」
【アブストラクト】
本研究の目的は、組織成員の認知するリーダーシップがいかに彼らの組織内での行動に影響を及ぼすのかを明らかにすることである。組織を構成する人々は、組織を統率するリーダーとリーダーの指揮命令下で活動するフォロワーの大きく二つに分けられる(西之坊, 2020)が、小野(2013)の「リーダーシップと比べてフォロワーシップの研究の歴史は浅く、研究蓄積もリーダーシップに比べて圧倒的に少ない」という指摘のように、フォロワーに焦点を当てた研究は少ないのが現状である。また淵上(2002)は、リーダーシップを相互影響関係と捉えて「リーダーは、実際にどのような行動をするのかよりも、まずフォロワーによって、効果的なリーダーシップを発揮する者として認知されなければならない」と述べ、今後フォロワーに関する研究を重ねていく重要性を示唆している。
これらを受け、本論文では組織におけるフォロワーに着目し、中でもフォロワーによるリーダーシップの認知に焦点を当て、リーダーシップの認知が、フォロワーシップや組織コミットメント等をはじめとするフォロワー自身の行動とどのような関係にあるのかを質問紙調査の分析によって検討した。
その結果、以下の4点が明らかになった。
・リーダーシップへの共感度の高さは、直接的にフォロワーシップに正の影響を与えない
・リーダーシップへの共感度の高さは、フォロワーシップに部分的に正の影響を与える
・組織コミットメントの高さは、フォロワーシップに正の影響を与える
・リーダーシップへの共感度の高さは、組織コミットメントを媒介してフォロワーシップに正の影響を与える
今後の課題は存在するものの、研究蓄積の少ないフォロワーシップに関して有意な結果も得られたという点で、当分野の研究に貢献できたと考える。
谷口奏「上司のサポートがポジティブメンタルヘルスに与える影響」
【アブストラクト】
近年、厚生労働省がストレスチェック制度の実施を義務付けるなど、メンタルヘルス活動が重要視されてきた。特に最近では、メンタルヘルス対策と組織のマネジメントという2つの観点を掛け合わせて、従業員一人ひとりが健康で、かつ、いきいきと仕事に取り組むことが重要である。
そこで本論文では、十分な研究が行われていない、部下のワークエンゲイジメントを高める上司の適切なサポート量に着目した。ポジティブメンタルヘルスを測る指標としてワークエンゲイジメントを使用し、上司のサポートがワークエンゲイジメントに対してどのような影響を及ぼすかについて、勤続年数が5年以上の就業者を対象に調査を行った。2023年11月に調査会社を用いて200件のデータを収集し、重回帰分析を実施した結果、以下の6点が明らかになった。
・上司の公平性はワークエンゲイジメントに有意な影響を及ぼさない。
・ポジティブフィードバックは多ければ多いほど部下のワークエンゲイジメントを高める。
・ネガティブフィードバックは多ければ多いほど部下のワークエンゲイジメントを高める。
・裁量度は高ければ高いほどワークエンゲイジメントは高くなる。ある一定以上裁量度が高くなると、ワークエンゲイジメントは極めて高くなる。
・裁量度の高さはフィードバックの要求度に有意な影響を及ぼさない。
・フィードバックが多いほど、より多くのフィードバックを要求するようになる。
今回の調査では、上司のサポートの中でもポジティブフィードバック、ネガティブフィードバック、裁量度はワークエンゲイジメントに正の影響を与えることが分かった。しかし、公平性、裁量度の質問項目に関しては、より細分化して検討する必要がある。
前田志保「上司との関係性が若手社員の離職意思に与える影響」
【アブストラクト】
近年、少子高齢化により生産年齢人口が減少しているため、若年労働者の早期戦力化が求められている。一方で、大卒の入社3年以内の離職率は3割越えで推移している。従業員の離職は採用・教育コストの損失や企業イメージの悪化を引き起こしてしまうため、早期離職の抑制は企業が解決しなければならない課題となっている。また、労働者が初めて勤務した会社を辞めた理由として、職場内の人間関係に対する不満が主要因として挙げられる。そのため、早期離職の抑制に向けて、職場の人間関係の在り方について検討する必要がある。
そこで本論文では、まだ十分な研究が行われていない上司と若手社員の関係性に着目し、上司との関係性を測るLMXと上司からのソーシャルサポートがどのようにして若手社員の離職意思に影響を及ぼすかについて分析を行った。2023年11月に調査会社を用いて約 180 件のデータを収集し、重回帰分析を実施した結果、以下の 2点が明らかになった。
1. LMXの質の高さと上司からの道具的サポートは職務満足を高め、離職意思を抑制する
2. LMXの質が高い場合には組織コミットメントが高まるが、組織コミットメントは離職意思に影響を与えない
今回の調査ではLMXの質の高さと上司からの道具的サポートは若手社員の職務満足感を高め、離職意思を抑制することが明らかになった。また、若手社員の組織コミットメントの高さは離職意思を抑制する働きをもたないことが分かった。そこで今後は、上司のどのような行動がLMXの質を高めることができるのかを検討する必要がある。また、若手社員の就業意識の変化が組織コミットメントにどのような影響を及ぼしているのかについても調査する必要がある。