第12期生(2021年3月卒業)

赤羽理紗子「再雇用者の職務パフォーマンスにおけるPEDAL行動の効果」

【アブストラクト】

少子高齢化を背景に高年齢者雇用が推進される現代において、高年齢社員、とりわけ再雇用者のモチベーションの低さは企業が抱える課題のひとつとなっている。これを踏まえ本論文では、中高年社員のパフォーマンスに影響を与える5つの行動特性であるPEDAL行動に着目し、中高年社員の中でも特に再雇用者のパフォーマンスへの効果と交互作用を調査することで、彼らが職場でいきいきと活躍する方法を探ることを目的とした。結果として、中高年社員と再雇用者、さらには雇用形態(正規社員か非正規社員か)によっても重要となる行動が異なることが分かった。従って、社員の状況によって重要性の高い行動を積極的にとることが活躍の近道となる。また、PEDAL行動には交互作用が存在し、単独では逆にパフォーマンスを低下させる恐れのある行動が存在することが明らかになった。従って、各行動の特性を理解したうえでPEDAL行動をとることが求められる。今後は、引き続き各行動の特性を調査していくと同時に、企業では以上のことに注意しながら、再雇用者の戦力化施策のひとつとしてPEDAL行動の促進支援を検討するとよい。

 

衛藤美也「テレワーク拡大下での新入社員の組織社会化促進のために上司・先輩社員に求められる行動」

【アブストラクト】

2020年新型コロナウイルスの感染拡大により、感染防止対策として多くの企業がテレワークを導入した。多くの新入社員も4月の入社からテレワークを行うことになった。在宅勤務だと周りに同僚もおらず雑談が減り、孤立感を招きやすい。たとえそんなテレワーク下でも新入社員の組織社会化は必須である。よって本論文では、テレワーク下の新入社員の組織社会に有効な上司・先輩社員の行動について分析を行った。調査は入社1年目の新入社員を対象とし、尺度は「上司の支援行動」、「メンターの支援行動」、「先輩社員の支援行動」、及び「組織社会化」、「コミットメント」を用いた。分析の結果、メンターをつけること、メンターサポート・先輩社員サポートを充実させることが組織社会化に正の影響を及ぼすこと、メンターをつけること、上司サポート・メンターサポートを充実させることがコミットメントに正の影響を及ぼすことが明らかになった。テレワーク日数が多い新入社員に焦点を絞ると、上司サポート・先輩社員サポートを充実させることが組織社会化に正の影響を及ぼすことが明らかになった。一方で、本調査のサンプル数が少なく精度の高い研究とは言い難い。よってサンプル数を増大させた、より精度の高い研究が求められる。

 

橘田輔「職場における優越感が心理的安全風土の知覚に与える影響」

【アブストラクト】

近年、心理的安全性がもたらすポジティブな影響が注目されその重要性が唱えられている。しかし心理的安全性とは集団レベルの規範や風土を指し、個人レベルでの先行要因については検討の余地がある。そこで本論文では心理的安全風土の知覚に影響を与える要因として優越感、組織内自尊感情、心理的居場所感の3つを挙げその関連を明らかにすることを目的とした。検証の結果、全ての変数間で中程度の相関が確認されたが、優越感が心理的安全風土に対する知覚に正の影響を与える傾向に留まること、優越感と役割感の双方が高い時心理的安全風土を低く認知することがわかった。その他にも優越感は組織内自尊感情を介して心理的安全風土に対する知覚に影響を与えている可能性が示唆された。また、今回の検証結果から、役職の有無が心理的安全風土に対する知覚に与える影響が大きいことが確認され、役職がどのように影響を及ぼすのか詳しく理解することが求められる。 

 

佐藤健「マネジャーによる非自発的残業削減マネジメントの実現」

【アブストラクト】

 労働人口の減少等に伴って近年では政府による働き方改革が推進されているが、その際に長時間労働の削減は企業にとって大きな課題となっている。そして長時間労働や残業削減についてはマネジャーが対処に当たることが多く、大きな負担となっている。本論文では残業が発生する環境要因に着目し、マネジャーのマネジメントによって残業時間の削減を行うための手段について考察を行った。その結果、部下の残業時間は上司の残業時間に比例して長くなるが、上司の残業時間が過剰になりすぎると部下の残業時間への影響は小さくなり、割合としては減少することが明らかになった。また、上司と部下のコミュニケーション手段が豊富でかつ頻繁に行われている場合には残業時間が少なることが明らかになった。以上のことを踏まえると、マネジャー自身の残業の実態を把握して、部下とのコミュニケーションを段階的に増やしていくマネジメントが有効であることが示唆された。一方で、本研究から得られた結果としては先行研究のの延長に留まってしまったため、個

人特性を絡めて残業要因を分析するといった別の視点からの研究が求められる。

 

澁谷侑亮「部下のモチベーションに影響を与える上司のリーダーシップについて」

【アブストラクト】

部下のモチベーションをいかにして高めるかは上司にとっての課題の一つである。中でも、上司自らがリーダーシップを発揮して部下のモチベーションを高めることは、重要な課題である。そこで本論文では、部下のモチベーションに影響を与える部下のリーダーシップについて調査を行ない、仮説を検証した。分析の結果、以下の三点が明らかになった。⑴上司の信頼蓄積の行動、革新的試行の行動は部下のモチベーションに影響を与えない。⑵上司の緊張醸成の行動は部下のモチベーションに影響を与えない。⑶上司の傾聴、情報の共有はともに高い場合に部下のモチベーションを上げる。部下のモチベーションを上げる方法の一つとして、傾聴と情報の共有を同時に行うことが示唆された

 

白武愛理「テレワーク下における、インフォーマル・コミュニケーションの減少が就労者の心理に与える影響」

【アブストラクト】

 テレワークが急速に推進されたことで、コミュニケーション不足が問題視されている。その中でも本論ではインフォーマル・コミュニケーションが減少していることに焦点を当て、テレワークをしている人がインフォーマル・コミュニケーション不足によってどのような心理的影響を受けているかについて調査した。今回は2020年2月以前と比べて、テレワークの頻度が増えた人を対象としており、また用いた要素としては孤独感、繋がりの感覚、組織コミットメントの3つに絞った。

 分析の結果、孤独感は影響を受けていないこと、テレワークの頻度に関わらずインフォーマル・コミュニケーションが減少すれば、繋がりの感覚は低下してしまうこと、テレワークの頻度が高い人はインフォーマル・コミュニケーションが減少すれば、大幅に組織コミットメントを低下させてしまうことが分かった。このことからインフォーマル・コミュニケーションを活発化させることが、繋がりの感覚や組織コミットメントを低下させないために重要であることは明らかにできた。しかしテレワークの頻度によって孤独感は高まるものの、その原因が何であるかは明らかにできなかったので、違う視点からの研究が必要になる。

 

中村祥子「男性の育休取得が女性のキャリア形成に与える影響」

【アブストラクト】

近年、ワークライフバランス実現の一環として、女性の活躍推進や男性の家庭参加を促す政策が注目を浴びている。そこで本論文では、2つの検証を行った。1つ目に、女性のキャリア形成と育児休業取得や家事・育児参加などの男性の家庭参加の関連性に注目し、検証を行った。その結果、男性の育休取得は女性の昇進意欲に正の影響を与えることが分かった。一方で、男性の育休取得や家事・育児参加は女性の仕事に対するやりがいに影響を与えないことが分かった。2つ目に、「職場要因」「家庭要因」「個人要因」の3つの要因が男性の育休取得に影響を与えると考え、検証を行った。その結果、「職場要因」である勤務先の男性の育休取得に対する雰囲気や周囲への配慮、または「個人要因」である男性自身の育休取得に対する意思が、男性の育休取得に影響を与えることが分かった。しかし、本論文では調査対象者を女性に限定したことで、配偶者に関する質問は女性からの間接的なものになってしまったため、検証結果にバイアスがかかっている可能性があった。今後は、男性と女性両方を対象とした調査が必要になるだろう。

 

平木将志「部下の複業経験を企業に還元する上司のリーダー行動」

【アブストラクト】

本論文では、従来の副業も含んだ広い概念としての「複業」に着目した。その上で、企業における複業のメリットを整理し、「部下の複業経験を本業に還元する上司のリーダー行動」を明らかにした。具体的には、リーダーシップに関するLMX理論とPM理論を用い、上司と部下の間の関係性と上司のリーダー行動が部下の複業にどの様な影響を与えるかを分析した。分析の結果、上司と部下の関係性が良好な状態であれば、上司のP行動とM行動はどちらも、部下の本業への貢献意欲を高めることが分かった。一方で、上司のP行動は部下の複業に対する不安を増大させることも明らかになった。このことから、部下の複業経験を企業に還元するためには、上司は部下と良い人間関係を築いた上でM行動を取ることが最良であると考えられる。しかし、本論文では至らなかった点も多い。複業の研究はまだまだ少ないため今後の発展が求められる。