荒井理子「万年ルーキーと仕事の有意味感及びワークエンゲージメントとの関係」
【アブストラクト】
少子高齢化による人手不足を背景とし、新卒を十分に採用できなかった企業の様子が見られる。そのような状況下で、新卒の少ない会社では、新人が入ってこず後輩のいない「万年ルーキー」と呼ばれる社員が増えている。万年ルーキーは、後輩への指導経験を得ることができず、下っ端として与えられた仕事を漫然とこなすことになる。しかし、万年ルーキーに関して現時点で学術的研究はなく、万年ルーキーであることが仕事へのやりがいや業務に対してどのように影響するのかを明らかにする必要がある。
そこで本論文では、万年ルーキーはメンタリング経験がないことと、定型業務の量が多いことという2つの要素を持つと仮定し、これらが仕事の有意味感を介してワークエンゲージメントを抑制しているのかを調査した。2024年11月に調査会社を用いて、160件のデータを収集し、重回帰分析を行った結果、以下の3点が明らかになった。
1. 万年ルーキーはメンタリング経験がないため、仕事の有意味感を感じにくい。
2. 万年ルーキーであることは定型業務の多さに有意な影響を与えず、それによって仕事の有意味感にも有意な影響を与えることはない。
3. 万年ルーキーは仕事の有意味感を感じにくいため、ワークエンゲージメントが抑制される。
今回の調査では、万年ルーキーはメンタリング経験がないため、仕事の有意味感が抑制されワークエンゲージメントを持ちにくいことが明らかになった。また、万年ルーキーであることは定型業務の量に有意な影響を与えていないことが分かった。しかし、万年ルーキーに関する研究はまだ本論文しかないため、今後は万年ルーキーがどのような要素を持つのかをさらに検討する余地がある。また、万年ルーキーが働く会社にはどのような特性があるのかも調査する必要がある。
飯田知子「上司と部下のパーソナリティの相性が部下のワークモチベーションに与える影響」
【アブストラクト】
本稿は、上司と部下のパーソナリティの相性が部下のワークモチベーションに与える影響を検討することを目的とする。従業員のワークモチベーションは組織の生産性や職場満足度に大きく関与するが、これまでの研究では上司と部下の関係性に着目したものが多く、パーソナリティの相性が関係性やモチベーションに及ぼす影響は十分に検討されていなかった。
本稿では、ビッグファイブ理論を基にしたパーソナリティ評価と、リーダー・メンバー・エクスチェンジ(LMX)理論を用いて、上司と部下の関係性およびモチベーションの関連性を分析した。日本の 20 代正社員 150 名を対象にアンケート調査を実施し、相関分析および重回帰分析を行った結果、以下の 3 点が明らかとなった。
・上司と部下の関係性は、部下のパーソナリティが影響を与える
・上司と部下のパーソナリティの類似性は、上司と部下の関係に大きな影響を与えない
・上司と部下の関係性が良いと、部下のワークモチベーションは高まる
本稿の結果は、パーソナリティに基づく適材適所の人材配置など、職場の人間関係の質を向上させるための施策の有効性を示唆している。特に、若年労働者の職場定着やワークモチベーションの向上に向けた組織的な改善策の重要性が示された。今後の研究では、上司自身の自己評価や第三者評価を加え、より客観的なパーソナリティの測定を行うことが課題となる。
小野里深春「個人の両利き行動に影響を与える認知的・環境的要因の分析」
【アブストラクト】
企業にとってイノベーションの創出は大きな課題である。とくに、変化の激しい社会において漸進的なイノベーションと急進的なイノベーションの両立が求められている。そのような中で、有力視されているのがそれらを両立する両利きのマネジメントである。しかし、両利きのマネジメントは分析の限界も指摘されており、新たな両利きの概念として個人の両利き行動が注目されている。個人の両利き行動に対する研究は十分ではなく、それを促進する認知的・環境的な要因が明らかになることはイノベーション研究にとって意義のあることである。
そこで本稿では、認知的要因として組織コミットメント、会社の将来に対する安心感、環境的な要因として上司の配慮行動がどのように個人の両利き行動を促進するかについて分析を行った。2024年10月に調査会社を用いて150件のデータを収集し、重回帰分析を実施した結果、以下の4点が明らかになった。
・組織コミットメントは両利き行動に影響を与えない
・会社の将来性への安心感が高いと両利き行動を促進する
・会社の将来性へ安心感は両利き行動を構成する二要素である探索行動、深耕行動の両方を高める効果がある
・上司の配慮行動は両利き行動に影響を与えない
今回の調査では、会社の将来性への安心感は探索行動と深耕行動に正の影響を与え、両利き行動を促進することがわかった。そこで今後は、どうすれば社員の安心感を高められるか検討し、より創造的な行動に環境について調査する必要がある。
菊地麻里「上司の経営理念に即したフィードバックが中途採用者の離職意思に与える影響」
【アブストラクト】
近年、終身雇用制度が衰退し、中途採用が活発に行われるようになり、転職が当たり前の時代になった。更に、少子高齢化で生産年齢人口は依然として減少しているため、企業は中途採用者を獲得し、定着させる必要性が高まっている。また、新卒時と比べて転職時の方が企業選択の際に経営理念を重視することから、入社後の中途採用者への経営理念浸透が重要だといえる。そのため、中途採用者が組織に馴染むために不可欠である上司の行動が、経営理念の浸透および離職の抑制にどうかかわるかを検討する必要がある。
そこで本論文では、中途採用者に焦点を当てて、上司の経営理念に即したFB(フィードバック)が中途採用者の離職意思にどのように影響を及ぼすのかについて分析をおこなった。2024年10月に調査会社を用いて124件のデータを収集し、重回帰分析を実施した結果、以下の4点が明らかになった。
①上司のFB(フィードバック)が経営理念に即していると、中途採用者の職務関与が促進され、離職意思を高める。
②上司のFBが経営理念に即していると感じると、中途採用者の情緒的コミットメントは高まるが、情緒的コミットメントは離職意思に影響を与えない。
③上司と中途採用者の関係性や、中途採用者が転職先決定時に経営理念を重視しているかどうかは、①の関係性の強さに影響を与えない。
④情緒的コミットメントと個人の経営理念浸透の間には双方向の関係性がある。
今回の調査では、上司のFBが経営理念に即していると感じると、中途採用者は職務関与を高め、離職意思を高めることが明らかになった。また、中途採用者の情緒的コミットメントの高さは離職意思を抑制する働きをもたなかった。更に、上司と中途採用者の関係性や転職時の経営理念の重視度は、上司の理念に即したFBと職務関与の関係性の強さに影響を及ぼさなかった。今後は、本調査で明らかになった情緒的コミットメントと経営理念浸透の関係性を見直したうえで、経営理念の浸透促進や離職意思への影響を調べ直す余地がある。また、転職が活発になった今、中途採用者の離転職意思にどのような変化が生まれているかも明らかにする必要がある。
原田琉矢「外国人と働く職場におけるインクルージョンの認識が与える影響」
【アブストラクト】
近年、グローバル化の進展や少子高齢化に伴う労働力不足を背景に、多文化的職場が急速に広がりつつある。特に日本では、外国人労働者の受け入れが進む一方で、異文化間の摩擦や職場内の課題が顕在化しており、多文化共生社会の実現に向けた取り組みが重要な社会課題となっている。そのため、本論文では外国人従業員と働く職場におけるインクルージョンの認識が及ぼす影響について検討する。
そこで本論文では、外国人従業員と共に働く職場、多文化的職場に限定し、インクルージョンの認識が及ぼす影響と外国人比率の変化によってその影響にどのような変化が起こるのかについて分析を行った。2024年11月に調査会社を用いて150件のデータを収集し、重回帰分析を実施した結果、以下の2点が明らかになった。
1.外国人と共に働く職場において、インクルージョンの認識は組織コミットメントおよび創造性を高める
2.外国人と共に働く職場において、外国人比率の高まりは、インクルージョンの認識の影響に変化を及ぼさない
今回の調査では多文化的職場において、インクルージョンの認識は組織コミットメントと創造性を高めることが明らかになった。また、多文化的職場において、外国人比率が高まっても、インクルージョンの認識の影響に変化を及ぼすことはないということが分かった。そこで今後は、インクルージョンの認識に影響を及ぼすその他の要因について検討する必要がある。また、多文化的職場で働く従業員をより詳細に区別し分析する必要もあると考えられる。
平田陸也「若手社員の昇進意欲を向上させる要因」
【アブストラクト】
現在の日本社会では、少子高齢化に伴う労働力不足が深刻化していることから、多様な人材を確保し定着させる必要性が高まっている。一方で、日本型雇用の変化や副業・転職といった働き方の多様化から若手社員の昇進意欲は低下し、人材の流動化が進行している。また、女性活躍推進法等の施策によって女性の管理職割合は増加傾向にあるが、依然として男女間の格差は大きな課題として残されている。若手社員の昇進意欲を向上させることは、組織の生産性向上やジェンダー平等の推進、個人のキャリア発展の促進に寄与する重要な取り組みであり、日本社会全体の成長と活力の維持においても不可欠である。
そこで本論文では、昇進意欲に影響を与える要因として、上司との関係性やロールモデルの存在、ファミリー・フレンドリー施策に着目し、その影響について20歳から34歳の正規社員を対象に調査を行った。2024年11月に調査会社を用いて160件のデータを収集し、分析を実施した結果、以下の6点が明らかになった
・上司との良好な関係性は組織コミットメントを介して昇進意欲を向上させる
・上司との良好な関係性は直接的に昇進意欲を向上させる
・ロールモデルの存在は昇進意欲を向上させる
・ロールモデルの存在は女性より男性の昇進意欲により強い影響を与える
・ファミリー・フレンドリー施策は組織コミットメントを介して昇進意欲を向上させる
・ファミリー・フレンドリー施策は組織コミットメントを介して男性より女性の昇進意欲により強い影響を与える
今回の調査では、LMXやファミリー・フレンドリー施策が組織コミットメントを介して昇進意欲を向上させることが明らかとなった。また、ロールモデルの存在が昇進意欲に影響を与えていることが示された。そこで、今後は適切なロールモデルの獲得プロセスや組織コミットメントを高めるその他の環境要因について検討する必要がある。また、今回取り上げた要因以外に昇進意欲を向上させる職場環境や職務経験について調査していく必要がある。
藤本周眞「異動者の組織再社会化の促進要因とその効果」
【アブストラクト】
現在、新規大卒就職者の3年以内離職率は3割を超えている。離職の原因の1つとして、組織への適応ができなかったことが挙げられる。組織に適応する機会は新卒就業者だけでなく、新たな職場に移る異動や転職時にも直面する。異動者や転職者の職場への適応を促すことは、組織にとって離職率の低下や組織に貢献する人材を育成する上で、重要になると考えられる。
そこで、本研究では先行研究が限られている異動者に注目した組織適応(組織再社会化)と「LMX」「ソーシャルキャピタル」との関係を明らかにする。また、組織再社会化の促進が、異動者の「組織コミットメント」と「キャリア自律」に与える影響を明らかにした。2024年11月に調査会社を用いて138件のデータを収集し分析した結果、以下の4点が明らかになった。
・LMXの高さは、異動者の組織再社会化を促進する
・ソーシャルキャピタルの高さは、異動者の組織再社会化を促進する
・組織再社会化を促進することは、異動者の組織コミットメントの向上には影響しない
・異動者に新たな職場の知識獲得を促すことは、異動者のキャリア自律意識を向上させる
今回の調査では、LMXの高さとソーシャルキャピタルの高さがどちらも異動者の組織再社会化を促進することが明らかとなった。また、異動者の知識獲得に関する組織再社会化を促進することは、異動者のキャリア自律意識を向上させることが示された。今後はタテとヨコの異動を同時に経験した異動者や、異動前後の職務内容の違いが大きい異動者に関する組織再社会化施策を検討する必要がある。