◆ビジネススクール(高度職業人養成プログラム)

 

青柳紀子「若年期女性のキャリア発達に企業文化が与える影響」

 

[要旨]

これまでの日本の労働市場は、女性が労働者として働き続けることに問題が山積みであったといえる。しかし現在は男女雇用機会均等法に代表される法整備が進み、企業内の支援制度も充実してきたことで、働く環境は着実に整ってきている。

人材育成、キャリア教育面については、多くの日本企業が日本的雇用慣行の下で会社主導の人材育成を行い、企業内特殊技能を身につけさせることで基幹労働者を育ててきた。しかしこの教育と恩恵を受け、昇進への道が開けていたのは男性正規雇用者に限られていた。女性はあくまでも補助的、短期的労働力として企業社会に参加していたにすぎなかった。

従って、改めて女性の働き方、キャリアを見直す必要性を感じている。

現在のような変化の激しい時代、企業は中途採用者に大きな教育投資をする費用も時間もない。できれば即戦力として働いてほしいと願うものだ。こういった点を踏まえると、女性自身が働くということ、生活を築くということは何なのかを考え、そして選ぶ時代になったのではないだろうか。

では女性はどのようにキャリアを蓄積し、どのようにキャリア発達をしていくのだろうか。これまでの研究では、そのキャリア発達という視点にたったものは意外にも少ない。働く女性が増えてきた昨今でも、学卒後に正規雇用で働いた後、結婚・出産を機に一時社会から退出することを選択する女性が多いと、相変わらずの統計的差別がよく用いられてしまう。同時に、社会復帰の際には、社会的風潮として、資格取得やPC操作などの技術獲得が先行しがちで、やはり職務経験が少ないことが難点といえる。

そこで本研究は、「若年期の女性におけるキャリア発達」という視点に立ち、キャリア発達に企業が与える要因を検討していくこととする。女性のキャリア発達が何に規定されるのかを明らかにするため、アンケートによる調査を行なった。その対象は転職経験のある女性であり、ニコルソンのキャリア・トランジション・サイクルを用いて、卒業後初めて就職した企業(以下、初職とする)と現在の企業(以下、現職とする)との比較検討を行う。

初職と現職での差異をみた上で、初職の組織文化によって職業意識やキャリア発達が異なるのではないかと仮定している。それは、女性個人が組織に根付いた価値観に染まっていくことでその価値を前提とした行動を引き起こす。女性の所属する組織の風土や環境、周囲の人々の価値観によって、制約を受けると考えるからである。具体的には、初職で個人を尊重するような組織文化があれば、キャリア発達が促進されると考えている。

以上から、初職の組織文化によってキャリア発達が何らかの制約を受けることを踏まえ、その職業意識やキャリア発達が停滞するのか、あるいは促進されるのかを検討していく。

本論文は6章から構成される。

まず第1章では、研究の背景を述べる。

第2章では、女性労働の歴史的変遷を踏まえ、キャリア定義の整理、既存のキャリア論をレビューし、女性のキャリアに関する先行研究を概観していく。

第3章では、女性のキャリア発達に影響を与える要因を検討する。雇用慣行、法制度などが整ってきた一方で、一向に改善されない原因は、組織社会化及び組織文化にあるのではないかと仮定している。法律や制度は成文化されているため、誰もが目にすることができ、変化を実感、理解することが容易である。しかし、組織文化は、一般的に組織の価値観や規範と認識されており、目に見えにくく、しかし阻害要因として、女性のキャリアに多大な影響を与えていると想定している。また組織社会化は、組織への参入時期の大きな課題である。組織社会化は、その過程で組織の規範や価値・文化を身につける、組織内のキャリア形成の基礎を築くことになる。リアリティ・ショックに直面することもあるだろうし、価値観の不適合が生じるかもしれない。これらを克服することで、組織の成員へと成長していく。ここでは先行研究を踏まえ、その組織社会化の成否が女性のキャリア発達に影響を与えているとするモデル及び仮説を提示する。

第4、5章では、本論文の調査の概要と分析結果を考察していく。

第6章では、本研究の結論と今後の課題を示す。